ハートは、キャリアが40年以上に及び、数々の名作、名曲を出していた割には、評価が今一つであると思います。
女性ロックでのライバルである、フリートウッドマック、ブロンディ、ブリテンダーズと比べ、ロックの殿堂入りが遅かったことからもそれがうかがえます。
また特に日本では、本国アメリカと比べ、人気も評価も低いと感じています。
初めは、私だけがそのように感じているのかな、と思っていましたが、ネットでいろいろ検索してみますと、上記のような意見がちらほら見うけられました。
そこで、なぜ評価が今一つなのか、日本独自ではないと思われる事情と日本独自の事情と分けて、私なりにまとめてみました。
①日本独自ではないと思われる事情
1)バンドとしての弱点
ハートはバンドというより、ウィルソン姉妹による女性ディオ、またはウィルソン姉妹によるプロジェクトとみなされがちです。
バックの男性メンバーの存在が希薄であり、バンドといってもイメージがわかないという人もいます。
そのようなことを反映し、ウィルソン姉妹以外のメンバーチェンジがかなり頻繁にあり、長い歴史のなかで、すべてを把握している人は、相当のファンといえます。(実は私も、最近のメンバーは把握しかねています)
そのようなことから、楽曲の良さ、アンの歌唱力、ウィルソン姉妹の美貌、数々の実績に関わらず、評価が今一つとなっています。
2)ロックの特徴としての、新奇性や不良性に欠ける
まず、そもそもロック音楽は短い期間のあいだ、さまざまな新しい音楽、サウンドを生み出し発展していきました。
ハードロック、プログレ、パンク、ニューウエイヴ、ゴシックミュージックなど。
ハートの場合、レッド・ツェッペリンのフォロワーからスタートしたこともあり、オリジナリティはありますが、新奇性には乏しいです。
また、80年代後半の復活での、産業ロック(あまり、この言い方は好きではありませんが)、メロディアス・ロック路線も、すでにあるシーンの音楽的傾向に乗ったという感じです。
このようなことから、あくまで、女性ヴォーカル・ハードロックの草分けとしての評価はされていますが、ハート自身が、新しい音楽なり奏法なりを生み出し、それによる後世に影響が少ないため、その面で評価が低いと思います。
また、不良性に関しててですが、(あくまでロック・アーティストの範疇内での比較でありますが)、ハートは品行方正で、優等生的な部類に入ると思います。
ロック・アーティストにありがちなドラッグの話は聞きませんし、飲んだくれて、喧嘩騒ぎの話も聞きません。
また、歌詞にもそれほどのメッセージがありません。
私としては、そのような品行方正なハートが好きです。
しかし、ロックはもともと反体制派の音楽と考えている人や、歌詞のメッセージ性を重視する人にとってたら、ハートは体制寄りで、軟弱で物足りないバンドと映ると思います。
3)音楽性が90年代以降の主流であるオルタナティブ・ロックと相反する
ハートの音楽性として、70年代ハードロック、80年代メロディアス・ロックがメインのため、いまの主流である、オルタナティブ・ロックの要素がありません。
いまでこそ、HR/HMやメロディアス・ロックは再評価されていますが、私がロック・リスナーに戻った2002年頃は、ヘヴィー・ロックやオルタナティブ・ロックが幅を利かせて、まさにHR/HMやメロディアス・ロックは、済においやられた感じです。
またその当時、ハートは活動休止していたため、まさに忘れされれようとしていました。
また、ハートとライバルである、フリートウッド・マックは90年代にロックの殿堂入りしていましたし、ブロンディやプリテンダーズ2005年から2006年にかけて、ロックの殿堂入りしています。
しかし、ハートに関しては声も上がっていない状況でした。
その当時、何を基準にアーティストを殿堂入りさせているのか?と思いましたが、何となくわかってきました。
ニューウエイブ系のアーティストが多数殿堂入りし、プログレやHR/MH、メロディアス・ロックは、あまり入っていませんでした。
やはり、それらのジャンルは評価が低いのか?と思いました。
幸い、10年代に入り、HR/MH、メロディアス・ロックも再評価され、それを反映するようハートも、2013年にロックの殿堂入りを果たしました。
4)80年代後半の全盛期に自作の曲が少ない
確かに、ハートは80年代後半に復活し、曲やアルバムを次々にチャートに送りこみますが、残念ながらほとんどが、外部ライターのペンによります。
いまさら、いうまでもないことですが、自作の曲を自演するのが、ロック音楽の基本です。
その面で、どうしても評価が下がってしまいます。
そこで、一つ考える所があります。
70年代に、自作の曲でも、そこそこヒットしていた時、その曲も、今ひとつ、キャッチーでなく、頭にすぐに残るような曲ではありません。
また、ハードロックもやり、アコースティック・バラードもやるといった具合に、音楽性は幅広いが、つかみどころがない部分もあります。
ウィルソン姉妹は、キャッチーな曲が書けないのであろうか?また、その気になれば書けるが、書きたくないのであろうか?
それは、本人たちに聞いてみないとわかりませんが、いずれにせよ、80年代後半は売れるためとはいえ、いろいろ不本意なことがあったということなので、キャッチーで売れるような曲が好きではないことは確かです。
5)名作と凡作との差が激しく、当たり外れがある
ハートはバンド側の事情、シーンの事情双方により好調・不調の波が激しく、それが作品の内容に反映されています。
簡単にいうと、70年代の「ドリーム・ボート・アニー」、「リトル・クイーン」、「ドック・アンド・バタフライ」はおすすめできます。
また80年代後半の黄金期の「ハート」、「ブリゲイド」は必聴版といえるレベルです。
しかし、80年代前半低迷期の「ベベ・レ・ストレンジ」、「プライベート・オーディション」、「パションワークス」はコアなファン以外、聴かなくていいかなというレベルです。
②日本独自の事情
1)そもそもハートの音楽性が日本人向きでない
80年代後半のメロディアス・ロック以外は、そもそもハートの音楽性が日本人向ではありません。
70年代後半の音楽性は、叙情的ではあるが、日本人が好むような、泣きのメロディーではなく、つかみどころがない部分もあります。
他の有名アーティストの例では、キンクス、ザ・フー、ロキシー・ミュージックなどにも同じ傾向があります。
また21世紀に入っての活動再開時は、時代を反映するようなヘヴィーなギターリフのロックンロールや、渋いアコースティック・サウンドで、アメリカ人には好まれても、日本人向きではないと思いました。
2)日本での売り込み方がいまいちであった
ハートの日本デビューの時、その時のレコード会社の担当者にダメ社員を割り当てられたんじゃなかろうか、と思うぐらいいまいちでありました。
まず、「ドリーム・ボート・アニー」の当時の日本語タイトル「ハート宣言」。
あまりに安易なネーミングであるが、私としてはとても恥ずかしいタイトルでした。
このアルバムを入手したかったが、このタイトルが恥ずかしくて、買えなかった思い出がありました。
せめて、「夢見る姉妹の舟出」としていたら、買っていたでしょう。
また、80年代前半の「パションワークス」の一曲目の「How Can I Refuse?」を「誓いのハートビート」としていました。
いまいち感がプンプンです。
まあ、美人姉妹をフーチャーして、アイドルバンドとして売れば楽だったと思いますが、内容は本格ロック。
当時のレコード会社としてはどう扱っていいかわからないバンドだったと思います。